女性の社会進出が増えていくにつれ、35歳以上の女性による高齢出産は増加。お産はお母さんや赤ちゃん双方にとってのリスクが高く、命を預かる産婦人科医へのなり手の減少に危機感を覚えているという中林先生。
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お産は命がけであることをもっと世の中の人に知ってほしい」と語る中林先生の母親と赤ちゃんへの医療貢献とは。また、不妊治療を何組も見てきた中で、妊娠出産を無事に迎えられるためのアドバイスについても伺いました。
日本は技術力は高いが、全てのお産は命がけ。
-今日は取材のお時間ありがとうございます。先生はご家系が産婦人科医をされているんですね。
そうです。家族に産婦人科医が多かったので、他の選択肢を特に選ばずそのまま産婦人科医になりました。
-そうなんですね。少し失礼かもしれませんが、産婦人科医は女性の方が多いイメージがありました。
私のような男性の産婦人科医も多くいますよ。産婦人科医は男性と女性で職務の領分が少し違っていて、女性医師は検査を、男性医師は手術や当直などを行っていることが何となく多い気がします。もちろん両方こなされている先生もいらっしゃいます。
-産婦人科医はリスクの多い職種であると聞きます。これまで業務の中で大変だと感じたことはありますか?
どれがということはなく、正直いつも大変ですね。お母さんと赤ちゃんの命を預かっているので・・・日本は比較的技術力があり、お産で命を落とす割合は世界に比べても低い方ではあります。長野の事例では、世界で一番小さな200gの子供が生まれているくらい。
しかし、それでも毎回のお産は全て命がけですし、どうしようも出来ないこともあります。母親と赤ちゃん、どちらかでも一方が危険になった現場は大変緊張が走りますが、そのような大変な状態を乗り越えてちゃんと生まれてくれた時の喜びは大きなものですね。
増える不妊治療。妊娠したい時にするべきことは
-不妊治療はどのような流れで行われるのでしょうか?
不妊治療を依頼される方は30代後半~40代あたりの女性が多いですね。基本的にお悩みを聞き、検査を通して不妊の原因特定をしていきます。対外受精は専門の施設で行いますので、そちらを希望される場合は専門施設を紹介することもあります。
実は、不妊の3~4割は男性であることが分かっています。ですので、不妊の検査は女性と男性と同時進行で行います。男性は精液検査となるので検体を持ってきていただければ病院に行く必要はありませんが、夫婦で来られるケースが多いですね。
-では、妊娠・出産したいと思った時に気を付けた方がいいことなどはありますか?
よく言われているのですが、葉酸の摂取は大切です。出来るだけ、妊娠前の妊娠を希望している時から葉酸は摂るようにして、あとは普通の食事をきちんとバランス良く食べていれば問題はありません。妊娠後は受動喫煙やたばこ、お酒など、不摂生をしないことが重要です。
少し話がそれてしまいますが、実は私は受動喫煙を防止する活動も行っています。受動禁煙してしまう場所を減らしていくために、東京都医師会のバックアップで署名を集めたりもしました。色々と反発する意見もありましたが、2020年から東京都の条例が変わり、飲食店は一部の店舗を除き喫煙が禁止になる予定です。
喫煙される方にとっては肩身が狭くなるとは思いますが、受動喫煙の影響は喫煙者よりも大きいです。特に妊婦さんの大事な時期はタバコは母親にも赤ちゃんにも悪影響なので、産婦人科医として、こうした活動は広げていきたいですね。
妊婦さんの安心安全のために、産婦人科医のなり手を増やす待遇を
-産婦人科医として今後どのような展望がありますか?
少しずつ医者の働き方の改革は進んでいるようですが、産婦人科医を育てる環境があっても、産婦人科医はどうしてもリスクが高いなどの問題でなり手の数自体が少ないです。少ない人数で回さなければならないので、当直明けもずっと働き、36時間張り付いたままのことも普通にあります。
こと日本では、安全に出産して当たり前だと思われている。お産は命がけということを、世の中にはもっと分かってほしいと思っています。国に対しては、産婦人科医療が崩壊する前に待遇を良くしたり、次世代が産婦人科を目指したいと思えるような仕組みを整えて頂きたいですね。
私は今中林助産師学院で、技術力や道徳心のある助産師を育てていくための教育も積極的に行っています。母子の健康・福祉をより安全に、より出産を待ちわびる方が安心してお産を迎えられるように、今後も尽力していきます。
-中林先生、ありがとうございました。